タスクの開始:見えにくいハードル
始めることは、やることよりも難しいのです。これはたとえ話ではありません。
Barkley(1997年)のADHDの統一理論は、中核にあるのは行動抑制の問題であり、それが4つの実行機能(ワーキングメモリ、感情・動機づけ・覚醒の自己調整、発話の内面化、再構成)に波及的な影響を及ぼすと提唱しています。私たちの解釈では、タスクを始めることは、この4つすべてが交わるところにあります。タスクを始めるには、目標をワーキングメモリに保ち、取りかかるときの不快感を調整し、自分に向けて「今これをやる」と指示を出し、頭の中でタスクを実行できる手順に組み立て直す必要があります。
これらのどれかがうまく働かないと、その結果は先延ばしのように見えます。しかし、タスクそのものを避けているわけではありません。意図を行動に変える実行系が、うまく働かなくなっているのです。ADHDのある人は、何をすべきかを分かっていて、それをしたいとも思っていることがよくあります。やりたい気持ちと始めることのあいだの橋渡しで、つまずいてしまいます。
出典
Barkley, R. A. (1997). Behavioral inhibition, sustained attention, and executive functions: Constructing a unifying theory of ADHD. Psychological Bulletin, 121(1), 65-94. https://doi.org/10.1037/0033-2909.121.1.65
行動モデル:やりやすくする
モチベーションが当てにならないときは、必要な労力を減らします。
BJ Foggの行動モデル(2009年)は、モチベーション、能力、きっかけが重なったときに行動が起こると提唱しています。モチベーションが低いなら、行動は簡単でなければなりません。モチベーションが高いなら、より難しい行動も可能になります。ADHDのある人では、モチベーションの揺れがより大きくなることがあると私たちは考えています。そのため、いつもモチベーションに頼ってスタートラインを越えられるとは限りません。
実践面での意味合いは、モチベーションが低い瞬間を前提に設計することです。フォーカスセッションを始めるのに、アプリを開き、画面に移動し、タスクを作り、所要時間を設定し、サウンドスケープを選ぶ必要があるなら、その一つひとつが、取りかかりでつまずきうる摩擦のポイントになります。始めるのが1タップなら、摩擦は、モチベーションが低い状態でも行動が生まれるしきい値を下回ります。
ADHDのCBT:ひとつの試験でわかったこと
ADHDの薬を服用中の成人を対象にした試験で、計画のスキルを教えるCBTのほうが、リラクセーションと教育的サポートより症状が軽くなりました。
Safrenら(2010年)は、薬を服用していても症状が続いていたADHDの成人86人を対象に、ランダム化比較試験を行い、JAMAに発表しました。成人のADHD向けに作られた認知行動療法を12回受けたグループは、リラクセーションと教育的サポートを12回受けたグループよりも、症状がより軽くなりました。症状は、各参加者がどちらを受けたかを知らない評価者が評価しました。この療法の中心となる内容は、カレンダーとタスクリストを使った整理と計画、手に負えないと感じるタスクを手順に分けることを含む問題解決、気の散りへの対処、苦しくなる場面で状況に合わせてより柔軟に考える方法でした。この試験は、そのうちどれが違いを生んだのかは検証していません。
ADHDではなくうつ病を対象にした研究ですが、Cuijpersら(2007年)が16件の研究(780人)をまとめたメタ分析では、気分と日々の活動を記録して、楽しい活動を増やしていく行動面の治療である活動スケジュール法が、認知療法とほぼ同じくらい効果がありました。タスクを始めることについて、私たちがここから得ている教訓は、準備ができたと感じる必要はない、ということです。必要なのは、準備ができているかどうかが問題にならないくらい、道のりが短いことです。
出典
Safren, S. A., et al. (2010). Cognitive behavioral therapy vs relaxation with educational support for medication-treated adults with ADHD and persistent symptoms: A randomized controlled trial. JAMA, 304(8), 875-880. https://doi.org/10.1001/jama.2010.1192
Cuijpers, P., van Straten, A., & Warmerdam, L. (2007). Behavioral activation treatments of depression: A meta-analysis. Clinical Psychology Review, 27(3), 318-326. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2006.11.001
Ebbiの取り組み
タップが1回減るごとに、行く手をふさぐ壁が1つなくなります。
- 1タップで開始。
プランができたら、プランタブの下部にある「今すぐ開始」ボタンで、最初のブロックを1タップで始められます。
- 見積もりを保存できるタスクバンク。
タスクは1タップで一度保存すれば、時間の見積もりごと再利用できます。
- 初回起動時の同意ダイアログはありません。
初めてアプリを開く瞬間は、決断を求めるのに最も向かないタイミングです。
設計の原則は一貫しています。それは、使える実行機能は最小限だと想定し、それに合わせて行動までの道のりを短くすることです。Ebbiのすべての機能は、「調子の悪い日でも使えるか」という問いで確かめてきました。
限界について、正直に
研究が裏づけていることと、裏づけていないこと。
生産性アプリでUIの摩擦を減らすと、ADHDのある成人のタスク開始率が上がるかどうかを直接測定した研究はありません。ADHDでの実行機能の違いは、十分に記録されています。Foggの行動モデル(手順を減らすほど、行動が増える)はデザインのモデルです。2009年の論文はこれを提唱していますが、検証はしていません。CBTの試験で分かったのは、計画やタスクの分解などを教える療法が、すでに薬を服用している成人にとって、リラクセーションと教育的サポートよりも助けになったということです。どのスキルが違いを生んだのかは検証していません。具体的な実装(1タップでの開始、あらかじめ用意されたテンプレート)は、対照試験で検証されたことがありません。
Ebbiのやり方は、これらの原則と知見をインターフェースデザインに応用したものです。隔たりがあるのは、原則と、その具体的な応用とのあいだです。